以下のTコードの紹介文はtc2.0パッケージに含まれるドキュメントの抜粋です。
T-Codeは東京大学理学部情報科学科山田研究室で開発された無連想2ストローク漢字入力方式です。
漢字入力は現在「かな漢字変換入力」が主流であると思われます。しかし、かな漢字変換は判断を必要とする作業であり、大量の文書を入力するのには向きません。
2ストローク入力はキー二打鍵の組み合わせで漢字一文字を表すことによって漢字入力を行う入力方式です。キーボードから直接漢字を入力できるので、変換の必要はありません。キーの二打鍵で常に一つの文字を入力することになるので、文章の入力はリズムをくずすことなく行えます。
※ ただし、2ストロークで表せる文字の種類には限りがあります。2ストロークで直接入力できない文字のことをT-Codeでは外字と呼びます。外字の入力にはかな漢字変換を使うこともあります。Nemacs/Mule用のT-Codeドライバでは、外字入力用に、部首変換・交ぜ書き変換・JISコード表などの補助入力手段を提供しています。 □
漢字に対するキーの割り当てには連想式と無連想式があります。連想式というのはキーの組み合わせと文字の間に連想があるものを言います。たとえば「トキ」で「時」を表すなどの方法です。一方無連想式というのはそれらの間に連想関係がないものを言います。
一般に連想式は習熟にかかる時間は短くてすみますが、ある程度上達してしまうと打鍵速度が上がらなくなります。その理由は文字と打鍵位置の間に関係があるために入力が思考によって邪魔されてしまうためと、もともと入力する時のことは考えられていないためにawkward sequence (複雑な指の運びを強いられる打鍵列のこと)が多くなり指に負担がかかってしまうためです。
無連想式では入力時のawkward sequenceが小さくなるように打鍵位置を決められるため、習熟すればするだけいくらでも速く入力できるようになります。しかも変に思考に邪魔されることがないため、英文タイピストのようにおしゃべりをしながら文書の入力ができるようになるといわれています。そのかわり打鍵位置を覚えるまでは、何の手がかりもないのですから長い時間をかけてひたすら覚えることになります。
2ストローク入力法式はたとえば手書きの文書を計算機に入力する時に最大の効果が期待できます。目から入ってきた文字を言語中枢を経由することなく手で打つことができるからです。しかし、頭で考えながら文章を入力するときには必ずしも最善の方法ではないかもしれません。
T-Codeでは片手あたり5列4段20個、計40個のキーを使います。40個のキーを二打鍵することで一文字の入力を行います。人指し指は2列分を受け持ちます。T-Codeでは40個のキーの二打鍵、計1600通りの打鍵位置のうち現在約1300に文字を割り当てています。新聞などの記事を入力する際には、入力するべき文字の約95--98%がT-Codeの二打鍵で入力できるといわれています。
普通のキーボードでT-Codeを利用する場合、次の図のような配列を用います。ここでは、いわゆるQWERTY配列のキーボードを想定しています。以降の説明でも、特に断らない場合はこの配列に基づき説明します。なお、T-Codeドライバでは、Dvorak配列用などにカスタマイズすることができます。実際のキーボードでは、キーは下図のような長方形ではなく、一列毎にずれた配列になっていますが、そこはがまんして使うことにします。
左手用 右手用 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 Q W E R T Y U I O P A S D F G H J K L ; Z X C V B N M , . /
※T-Code専用のキーボードも存在します。T-Code用のキーボードを見ると、その第一印象は真っ白なことです。真っ白なのはキートップに書くべき情報が何もないことから納得できます。次にもっとよく見るとキーが長方形に並んでいることに気づきます。キーの配置が長方形だというのは、「上段が左に、下段が右にずれて」いないということです。タイプライターに由来するこの「ずれ」は電子化された今のキーボードには必要ないからです。□
T-Codeの打鍵位置の割り当てを表にまとめたものがストローク表です。この表は大きく四つの部分に分かれています。それぞれ、5×4の文字の長方形が5×4個並んでいます。そのうちの一つを見てみましょう。
RL ■■■■* ■■■■■ ■■■■■ ■■■■■ ■■■■■ 請境系探象 尚賀岸責漁 舎喜幹丘糖 布苦圧恵固 姿絶密秘押 盛革突温捕 益援周域荒 康徒景処ぜ 邦舞雑漢緊 衆節杉肉除 依繊借須訳 織父枚乱香 譲ヘ模降走 激干彦均又 測血散笑弁 酸昼炭稲湯 貿捜異隣旧 攻焼闘奈夕 盤帯易速拡 汽換延雪互 歩回務島開 キせ区百木 や出タ手保 コ山者発立 ナ金マ和女 給員ど代レ 分よル千ア 7 か( トれ きっ日国二 上く8 え年 相家的対歴 付プばュ作 内工八テ見 九名川機チ サ建パ第入 桜瀬鳥催障 典博筋忠乳 採謡希仏察 君純副盟標 犯余堀肩療 中スもお定 わラ東生ろ う4 ) 十リ あこ6 学月 本さら高シ 3 と〇てる ーした一が い、の5 1 。* 0 ・2 ではになを ッ人三京ち ロク万方フ んまンつ四 けイす電地 業時「長み 呼幅歓功盗 紀破郡抗幡 房績識属衣 去疑ぢ綿離 秒範核影麻 店持町所ほ 全じ自議明 バ部六経動 後間場ニ産 問ム七住北 行ド円小ジ 通カ社野同 だり―め大 新」9 子五 事田会前そ 海道ず西げ 当理メウグ 不合面政オ 委化ビ目市 気売下都株
表の左上に`RL'と書いてあるのは、この表が一打鍵目は右手、二打鍵目は左手で打つ文字の表であることを示しています。小さなブロック内での文字の位置が一打鍵目の打鍵位置を、そのブロックが全体の中でどこにあるかが二打鍵目の打鍵位置を表しています。たとえば`円'という字は左下のブロックの中にあり、その中で中央中段にありますから、一打鍵目は右手中指のホーム・ポジション、二打鍵目は左手小指の下段(Zのキー)ということになります。この表現形式を木を見て森を見る方式と評した人がいます。
この表の中で`■'で表された打鍵位置には現在文字が割り当てられていません。また、`*'で表された打鍵位置は、機能または3ストローク以上のキーストロークを表しており、文字は割り当てられていません。ここで、機能とは、たとえば部首変換入力、交ぜ書き変換入力の開始などを指します。また、3ストローク以上のキーストロークはTUT-Codeで使用します。